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スタイリスト 服部 昌孝

2016.10.15

服部昌孝は今や引っ張りだこのスタイリストだ。雑誌、ファッションブランド、役者、ミュージシャンと幅広い分野でスタイリングをしている。そんな彼がインタビュー中に言った「ビビんな、と思う」という言葉は今でも脳裏に浮かぶ。彼は今日も死ぬほど考えて、死ぬほど戦っているのだ。

大学3年で皆んなが就職活動をしている中、
アシスタントをしていたので、
地元で「あいつはもうおかしくなった」
って噂になるくらいでした。

ー まず始めにスタイリストになろうと思ったきっかけを教えてください。

服部 洋服が好きというのが根本にありますね。地元は世間体を大事にするような町だったから、良い大学に行って、良い会社に入るのが常識だったので勉強を頑張っていたんです。それで東京の大学に入ってみたもののつまらなくて、空き時間に服屋に行くようになったら、自分で稼いで欲しいものがあれば買えるという楽しみを見出してしまい、どっぷりはまちゃったんです。それに雑誌のエディトリアルも好きで、ビジュアルを作りたい、絵作りをしたいっていうのがあってスタイリストになりたいなと。大学入って色々見るようになって、突発的になりたいって思ったから親にも何も言わず、大学3年で皆んなが就職活動をしている中でアシスタントに応募しました。アシスタントをしていたとき地元で「あいつはもうおかしくなった」って噂になるくらいでしたね。

- 周りの人と違うことをすること、自分の環境を変えることに対して怖さはなかったのですか。

服部 基本的には腰が重いんだけど、一度腹を括ってしまったらその方向しか見れなかったからあんまり怖くはなかったかな。親の手前、大学を辞めるわけにはいかなかったけど、部活もバイトも全部シャットダウンして、逃げ道をなくしていって、自分の中で前にしか進めない状況を作りました。突発的な衝動を行動に移すのって結局、一歩踏み出す勇気なんだよね。例えば仕事でも、一言を言うか言わないかで状況が変わるし、人としての差が出る。我慢して飲んだらそこで止まる。そこで言ってしまったら嫌われるかもしれない。だけどステップアップにはなる。立ち止まるか動くかというのは全てにおいて大事だと思う。

- そうやって猪塚さんの元でアシスタントを始められたんですね。独立を決めたタイミングはいつですか。

服部 師匠のオッケーが出たときです。アシスタント時代は何かあっても自分の師匠が後始末をしてくれるけど、独立してしまったら四方八方敵だらけ。当時アシスタント仲間だった人たちが一斉にライバルになるからね。

- 独立してから最初に悩んだことはなんですか。

服部 いかんせん尖っていたから、仕事がなくなってしまったことはありました。あんまり悩まないから何とも思わなかったけど。俺はストレスを、腹が立つことを仕事にぶつけるから悩まないんですよね。もちろん失敗出来ない仕事が増えたからプレッシャーにはなるけれどね。

スタイリストの仕事って正解も不正解も無いから、
ひたすら求めるんだと思います

- スタイリストを続けられるモチベーションは何ですか。

服部 やっぱりストレスですね(笑)。スタイリストの仕事って正解も不正解も無いから、ひたすら求めるんだと思います。これをやったら100点っていうことはないし、完全なる満足っていうのはないからもう中毒状態です。満足できるときがあるのかなと思いますね。

- スタイリングが上手くいったなと思う瞬間はありますか。

服部 毎回上手くいっているからな。俺の場合はモデルも自分で見つけるし、上手くいくようにするのが仕事だから、上手くいって当然なんです。もちろん仕事によってはキャラクターを作り上げるためにスタイリングをモデルに寄せることもあるし、「このスタイリングだったら、この人だな」ってスタイリングにモデルを寄せることもある。もちろん120%前準備をするのだけれど、撮影をするシチュエーションやライティングによってこのアイテムじゃない方が良いなとか、サイズ感や質感を変えたほうがいいなっていうのは現場で決めますね。それに背後にストーリーがある人のほうがスタイリングの幅も見せ方の幅もあると思うんですよね。すっと手が動いているとか、靴下がちゃんと履けないとか、眉毛が片方だけ上がっているとか、人にって色んな癖を持っていてそういうのもスタイリングの幅として考えています。そういった幅やアティチュードがある人間のほうが魅力があって、だからこそ普段モデルハンティングをするんですよね。

- スタイリングをする際に気をつけていることは何ですか。

服部 基本的に艶っぽいものは好きじゃないけれどエレガントは好きかな。わかりやすく言うと下品なのが嫌いなんです。だから品が無いスタイリングだけはしない。品を出すためには1回本当にエレガントなものを見たほうがいいと思うんですよね。裏付けがないと物事って言えないんで。例えばディオールやイヴサンローランに行ってみるとかね。それを見た上で品があるのかそうでないかの差に気づくと思うんです。この違いがわかったら強いですね。

- 仕事を始めから成長したと思うところはありますか。

服部 人間的には全く変わっていないね。取り巻く環境が変わっているだけで自分自身は全く変わっていない。環境はがむしゃらにやっていったら変わったね。媚びるのがものすごく嫌いで、「この仕事をさせて下さい」って言える人って多いけど俺は言えない。もちろん仕事を頂けるのは嬉しいから全うするんですけど、ただそれでハマらなかったらそれで良いと思っているし、やっている仕事が次には来なくてもそのときはそのときだと思っています。それは変わらないかな。大学のときは凄い冷たい目で人を見ていたし、群れないから友達もいなかったしね。

ビビんな、と思う

- 服に携わっていて良かったと思う瞬間はありますか。

服部 時々服を見るのが嫌になることもあるのだけれども、根本的に自分の好きなことですからね。服って無限じゃないですか。「何そのブランド?」って俺の知らないブランドもどんどん出てきているし、若くて人気がある人がいるっていうのも面白い。それに自分の師匠と同じ年代の方と、もしくはもっと上の年代の人と仕事をすることもある。そういったクロスオーバーしていく感じは面白いですね。本当に恐縮するようなこともあるけど、そこで負けたら次は無い。日々戦いだというスリリングな状況が良いとは思います。

- 年代を気にしないんですね。

服部 同じフィールドにいる仲間である以上は年上だろうが年下だろうが一緒だと思います。例え相手が年上だからって、こっちが意見を言わなかったらつまらないだろうし、若い人に対して気付いていないであろうことを言わなければならない。逆に言われたことに対してハッと思うこともあるっていうやりとりだから年齢は関係ないと思うんだよね。

- 今若い人で目標が見つけられない人もいると思うのですが、服部さんご自身はどうやって目標を見つけましたか。

服部 常に自分だよね。人から言われて作った目標って目標じゃないと思うんですよね。だから自発的な人間になりなさいって思います。今って自分で物事を決められない人が多いじゃないですか。誰かの判断を仰ぐのではなく、他人に頼るときは相談程度で。何事も決めるのは自分だっていう自覚が重要なんじゃないかな。

- 服部さんご自身の目標は何ですか。

服部 ありません。海外のコレクションでスタイリングをしてみたいといったことはあるんだけど、具体的なビジョンはあえて作っていません。ただ目の前のことを1個1個、日々こなしていくっていうだけかな。その積み重ねで生まれるものがあるからね。

- スタイリストを目指している人、始めたばかりの若い人もいると思うのですが、何か思うところはありますか。

服部 ビビビんな、と思う。日本人はキャリアを凄く見るから、そこでつまづくことも沢山あると思うんですけど、俺もまだ独立してから4年しか経っていないから戦える。俺自身もキャリア20年とかの人と同じ雑誌をやらなければならないときも時々あるけど、そんなことでいちいちビビったらやっていけない。腹を括んなきゃだめだと。人が言うことを聞きすぎても良いものは出来ないと思うし、だからといってもエゴイズムだけでも響かなかったりするし。死ぬほど考えて、死ぬほど戦ってください。



服部 昌孝
http://www.masatakahattori.com/